「Copilotに社内データを学習させて、自社の業務に合った回答をさせたい」と考える企業は少なくありません。結論からいえば、Copilotに社内データを学習させることはできます。
ただしその多くは、モデルそのものを再学習させるのではなく、RAG(検索拡張生成)と呼ばれる仕組みなどを利用して、回答時に社内データを参照させる方法です。
そして、方法選びと同じくらい大事なのが「学習させて、結局何をさせたいのか」という目的の整理です。目的によっては、Copilotよりも別のAIサービスが向いていることもあります。
本記事では、Copilotに社内データを学習させる方法から、実現したいことに合わせた使い分けまでを解説します。
Copilotに社内データを学習(参照)させる3つの方法
Copilotに社内データを扱わせるアプローチは、技術的に見ると「プロンプトで渡す」「RAGで参照させる」「ファインチューニングで再学習させる」に分けられます。
なお、一般的に「学習させる」と表現されますが、その多くはモデルを再学習させるのではなく、回答するときに情報を参照させる仕組みを指すのが実態です。この記事では、参照させる方法を2つ、再学習させる方法を1つ紹介します。
| 方法 | 導入・運用の難易度 | 更新のしやすさ | 向くケース | |
|---|---|---|---|---|
| 1.プロンプト | 質問のたびに情報を貼り付ける | 低い | 都度手入力 | 単発・少量 |
| 2.RAG | 回答時に必要なデータを参照させる | 中程度 | データ差し替えで容易 | 常に最新の社内データで回答(現実解) |
| 3.ファインチューニング | モデル自体を再学習させる | 高い(Copilot Tuningで一部緩和) | 再学習が必要 | 一部の高度ニーズ |
1.プロンプト
質問のたびに、参照してほしい情報をプロンプトへ貼り付ける方法です。
情報をそのままチャット欄に貼り付ける他、WordやExcel、PDFなどのファイルを添付して読み込ませることも可能です。
ただし、毎回手作業で情報を渡す手間がかかり、一度に読み込ませられる情報量にも上限があります。大量の社内データを継続的に参照させる使い方には不向きで、「この資料を参考に回答させたい」「この文章を要約させたい」といった単発の用途に向いています。
2.RAG(社内データを参照させる)
RAG(検索拡張生成)は、AIが回答するときに必要なデータを検索し、その内容をもとに回答を生成する仕組みです。モデルの再学習が要らないためファインチューニングと比べて導入・運用の負担を抑えやすく、情報の追加や更新もデータを差し替えるだけで済みます。
Copilotでは、Microsoft Graphやコネクタといった機能を通じてRAGが実現されています(具体的な方法は次章で解説します)。「常に最新の社内データに基づいて答えてほしい」という企業に向いているのが、このRAGです。
3.ファインチューニング
ファインチューニングは、特定の業務や業界のデータでモデル自体を再学習させ、自社専用にカスタマイズする方法です。
かつてはAzure OpenAI Serviceなどで独自にモデルを構築するしかなく、専門人材の確保やコスト、データ整備の負荷が大きいため、大半の企業にとって現実的ではありませんでした。
現在は「Microsoft 365 Copilot Tuning」の登場により、そのハードルは下がりつつあります。SharePointなどに置いてある文書を読み込ませることで、自社の用語や文体を覚えた専用AIを作れるため、コーディングや高度なデータサイエンスの専門知識も要りません。
ただし、2026年時点では早期アクセスの限定提供段階にあり、対象は5,000ライセンス以上を保有する大規模テナントに限られます(※提供状況・条件は公開時点の最新情報を要確認)。
こうして比べると、多くの企業にとっての現実解はRAGです。では、そのRAGをCopilotではどう実現するのかを、次章で紹介します。
| 【合わせて読みたい】 ・RAGとファインチューニングの違いとは?業務効率化に役立つ選び方と活用法 |
Copilotで社内資料を回答元にする具体的な方法
Copilotには社内資料を参照させる手段が複数あり、それぞれ対象となるデータも用途も異なるため、まずは全体像を整理します。
| 方法 | 対象となるデータ | 向いているシーン |
|---|---|---|
| Microsoft Graph | M365内のデータ(SharePoint・Teamsなど) | M365内のデータをそのまま活用したい |
| Copilot Notebooks | 自分で登録した資料・チャット・会議ノートなど | テーマを絞って深掘りしたい |
| Microsoft Graphコネクタ | M365の外(ファイルサーバーなど) | M365外のデータも参照させたい |
| Copilot Studio | 特定の資料 | 用途特化のQ&Aボットを作りたい |
1.Microsoft Graph(自動参照)
Microsoft 365 Copilot(有償アドオン)は、特別な設定をしなくても社内のOffice系データを回答元にできます。Microsoft Graphという機能を通じて、SharePoint・OneDrive・Teams・Outlookなどのデータを検索し、その内容をもとに回答を生成する仕組みです。
参照されるのは、サインインしたユーザーのアクセス権の範囲内のみです。権限のないデータは自動で除外されるため、原則として「自分が見られる資料」だけが回答に使われます。
裏を返せば、元データのアクセス権設定に誤りがあると、見せたくない従業員にまで情報が参照されてしまう点には注意が要ります。
2.Copilot Notebooks(プロジェクト的に資料を束ねる)
Copilot Notebooksは、チャット・ファイル・ページ・会議ノート・リンクを1か所に束ね、その内容に絞った回答を得られるワークスペースです。
指定した資料だけを根拠に回答する点ではGoogleのNotebookLMに似ています。一方で、すでに社内にあるM365のデータをそのまま参照ソースにできる点はCopilot Notebooksの特長です。
選んで束ねた資料の中だけで完結する作業に向いています。
- 特定プロジェクトの議事録・仕様書・関連メールを1か所に束ねて、経緯や決定事項を確認する
- 提案書・過去資料・参考リンクを束ねて、1本の企画書や報告書にまとめる下地にする
一方で、情シスや総務に来る雑多な問い合わせを資料横断でさばいたり、部署やテーマを問わず社内のあらゆる資料から情報を引ける共通窓口として使ったりなど、社内の資料を広く横断して使う用途にはあまり適していません。
3.Microsoft Graphコネクタ(M365の外のデータを取り込む)
Microsoft Graphコネクタは、SharePointやOutlookの中だけでなく、社内ファイルサーバー・NAS・他社クラウドサービスなどに保存された資料もCopilotの回答元に追加できる仕組みです。コネクタが社内の資料を定期的に読み込み、Copilotが検索できる状態を保ちます。
元の資料に設定されたアクセス権はそのまま引き継がれるため、閲覧権限のない人には、その資料を使った回答は返りません。
注意したいのは、参照範囲の設計と維持が発生することです。「どのデータ源を」「どこまで参照させるか」を設計し、その状態を保ち続ける運用が求められます。
接続方法や設定によっては、資料の移動やフォルダ構成の変更に伴い、参照対象が変わることがあります。そのため、データソースを変更した際は、コネクタ側の設定も含めて継続的に管理・運用することが重要です。
4.Copilot Studioを使ったエージェント構築
Copilot Studioを使うと、SharePoint上のファイルなど特定のソースの知識に特化した社内ボットをノーコード寄りで構築できます。公開方法や組織の構成によっては、Copilotライセンスを持たないユーザーにもエージェントを提供できるのも特長で、用途特化のQ&Aボットを全社に配る形も取れる仕組みです。
ただし、設計・構築・運用の工数がかかる点は見逃せません。この点は次章で詳しく触れます。
目的別の最適解:Copilotか、専用ツールか
ここまで社内データを参照させる手段を見てきましたが、適した方法は「何をさせたいか」によって変わります。多くの場合、目的は次の2つに大別できます。
- 個人の生産性を上げたい(資料作成・要約・メール処理を速くしたい)
- 全社の対応業務を減らしたい(社内問い合わせ・ナレッジ共有を巻き取りたい)
前者ならCopilot、後者なら専用ツールという選択肢が視野に入ります。
個人の作業効率化が目的なら、Copilotが最適
資料作成・要約・メール処理・Officeアプリの操作など、個人の作業を速くしたいならCopilotが最適です。
理由は主に3つあります。
- 作業が発生する場所に、AIが最初から埋め込まれている
Copilotは、WordやExcelなど、日々の作業が発生するアプリの中でそのまま使えるため、ツールの行き来なしで「資料を作りながら要約させる」「メールを読みながら返信案を出させる」といった作業が完結します。 - 社内データが回答の根拠になる
Microsoft 365 Copilot(有償アドオン)なら、Microsoft Graphが自動でSharePoint・Teams・Outlookなどを参照します。そのため、Microsoft 365内のデータを活用する範囲であれば、多くの場合は追加の設計も構築も不要です。使い始めたその日から「自分がアクセスできる社内データ」を踏まえた回答が返ってきます。 - 「使う人=恩恵を受ける人」なので、運用の負担が発生しない
回答が物足りなければ自分でプロンプトを変えればよく、参照資料も自分で足せばよいだけです。改善のサイクルが自分一人の中で完結するため、品質管理や運用の担い手を別に用意しなくて済みます。
そもそもCopilotで何ができるか押さえておきたい方は、こちらの記事もご覧ください。
ナレッジ共有や社内問い合わせが目的なら、専用ツールという選択肢
「情シスや総務に集中する問い合わせを減らしたい」
「社内のナレッジを誰でも引ける状態にしたい」
このような用途はCopilotでも実現できますが、設計や運用の負荷を考えると、専用ツールのほうが適していることがあります。
前章で紹介したCopilot Studioを使えば、特定業務に特化した社内ボットを構築でき、技術的には全社の問い合わせ対応も作れます。利用する側にCopilotライセンスは要りません。
問題は「作れること」と「回り続けること」の差です。
- 運用が回らず形骸化しやすい
ボットは作れても、回答品質の管理や改善を続ける担い手が要ります。「設計・構築・運用の工数を抱えきれず、結局使われなくなる」という失速は、社内ボットの取り組みでよく起きるつまずきです。 - コストが読みにくい
Copilot Studioの課金は消費量ベースです。問い合わせ対応のように利用が高頻度・大規模になるほど消費が積み上がり、月々のコストを事前に見積もりにくくなります。
加えて、利用者側に個人ライセンスは不要ですが、その代わりテナント全体で従量課金による費用負担が発生するのも、Copilotの注意点です。
これらの課題を解決する方法として、社内問い合わせに特化した専用ツールがあります。
なかでもOfficeAI社員®は、既存の資料を登録するだけで使い始められ、グラフや画像を含む資料も読み取れるツールです。定額制のため利用人数が変わってもコストは変わりません。無料トライアルも用意されています。
構築の入り口が軽く、運用も回しやすく、コストが読める。全社の問い合わせを巻き取る目的なら、こちらのほうが現実的といえます。
Copilotに社内データを学習させるときの注意点
Copilotで社内データを参照させると決めたら、使い始める前に押さえておきたい注意点があります。
- 情報漏洩・アクセス権限
Copilotの参照は、元ファイルに設定されたアクセス権をそのまま引き継ぎます。元データのアクセス権設定に誤りがあると、本来閲覧されてはいけない情報が回答に利用されかねません。例えば人事フォルダの査定資料や給与データが「全社員アクセス可」のまま放置されていると、一般社員の質問に対して評価情報が回答として出力されてしまう、という事態が起こりえます。 - 元データの整備品質
回答の精度は、参照元となる資料の質に直結します。3年前の旧ルールの規程と最新版が両方フォルダに残っていれば、Copilotが古いほうを参照して回答してしまうことがあります。 - ハルシネーション
社内データを参照させても、誤答のリスクはゼロになりません。参照元の資料が正しくても、回答が間違うことがあります。例えば「単身赴任手当はいくら?」という質問に対し、A事業部向けとB事業部向けで手当額が異なりそれぞれ別の資料に書かれていたため、両方を参照した結果、質問者の所属と逆の事業部の金額を答えてしまう。こうした取り違えは実際に起こりうるものです。
こうした落とし穴への対策として、導入前に次の3点を実施しておくと安心です。
- アクセス権を棚卸しする(「誰が・どこまで見られるか」を確認する)
- 回答元にする資料は最新版に一本化し、古い資料や重複する資料を整理する
- 重要な判断は人が一次資料で裏取りするルールを定める
いずれも導入後に直そうとすると影響範囲が広がるものばかりです。使い始める前のひと手間が、安心して社内データを任せられる土台になります。
まとめ|自社に合った「社内データの活かし方」を選ぼう
Copilotに社内データを学習させるアプローチには、プロンプト・RAG・ファインチューニングがあり、多くの企業にとっての現実解は社内資料を参照させるRAGです。Copilotの中でも、社内資料を参照させる手段は複数用意されています。
ただし、手段を選ぶ前に明確にしておきたいのが「学習させて何をさせたいか」です。個人の作業を速くしたいならCopilot、社内問い合わせやナレッジ共有を巻き取りたいなら専用ツールと、目的に合わせて使い分けるのが失敗しない選び方といえます。
全社の問い合わせ対応が目的なら、既存の資料を登録するだけで始められるOfficeAI社員®もご検討ください。







